〈カルチョビットA〉 小倉抹茶スパーズの軌跡(1)「監督就任!?」

「・・・督、S監督」

気が付くと、見慣れない部屋の1室にいた。目の前にいる女性が心配そうにこちらを伺っている。

「S監督、どうかされましたか?」

監督?私が監督?いったい何のことだろう?怪訝そうな顔をした私に、女性が話しかける。

「何かご不明な点があれば秘書の私におっしゃってください。一緒に小倉抹茶スパーズを盛り上げていきましょう!」

1年目3月1週目「私が監督就任!?」

後から分かったことだが、ここはN市にあるサッカークラブ「小倉抹茶スパーズ」のクラブハウスの一室。N市は”この世界”のN国のほぼ中央部に位置する工業が盛んなエリアの中核的な都市のようで、人口もそれなりに多い。経緯はわからないが、どうやら私はこの新しいサッカークラブの監督に襲名されたらしい。(サッカーなんてJリーグ程度しか知らない、運動音痴な私が監督だと!?)

戸惑う私に秘書が更に追い打ちを掛ける。

「まずは練習試合をしてみましょう。すこし格上のチームとの対戦ですが、胸を借りるつもりでのぞみましょう。」

そういってスタジアムへと向かう秘書に、状況を把握できないまま、なすすべなくついていく。スタジアムに付くと、一人の男が駆け寄ってきた。

「S監督、はじめまして。このチームのコーチをさせていただいています。これから一緒にチームを強くしていきましょう。」

コーチと軽く挨拶を交わしていると、ユニホームをきた、一人の女性が駆け寄ってきて声を掛けた。

「あなたが新し監督ですね。これからヨロシク!」

「彼女はミランダ。このチームのFWでエースです!」

コーチがミランダを紹介してくれる。それを切っ掛けに選手たちが次々と私たちのところにやってきて挨拶をしていく。みんな新しい監督の私が気になるようだ。そうこうするうちに練習試合開始の時間が近づいてきた。練習試合はハーフ45分で行われる。今日の相手は、1つ上のリーグ「ステップリーグ」所属の「ミサトFC」との試合らしい。

N1リーグ優勝へのはじめの1歩

ミサトFCとの練習試合は1-1のドローに終わった。18分にミサトのMFあさひなに先制ゴールを許したものの、23分にエリア内にドリブルで持ち込んだミランダがシュートを決めるとその後は終始、試合をコントトールした。勝ち越すことこそできなかったものの、ボール支配率65%、シュート数もミサトFCの2本に対し10本と格上チーム相手には十分な結果ではなかろうか。

この国のサッカーリーグは、N1リーグを頂点にN2リーグ、ステップリーグ、フレッシュリーグの4つのリーグで構成され、その中で小倉抹茶スパーズは一番下のフレッシュリーグに所属している。まずは6チームで争われるフレッシュリーグで優勝し、ステップリーグに上がることが第一の目標になる。

練習試合とはいえ、監督初戦で1つ上のリーグに引き分けるというまずまずのスタートを切ることができた。選手の誰かが叫んだ。

「目指せ!N1リーグ優勝!」

新チームの新監督には果てしなく遠く思える目標だ。だが、このチーム、このメンバーでリーグの階段を駆け上がっていきたい、みんなが感じた瞬間だったと思う。この時は・・・。

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